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ある冬の出来事。

【登場する地名、人物名、団体等は全て架空のものであり
実在するものとは何ら関係ありません。】



                  ◆


「ご同伴ってヤツですか」

目の前に現れた少女に対して、私は自分自身がそんな目で見られているのか、
というショックすら覚えた。

自炊する気力も無いまま、仕事に疲れた私が、いつも通う居酒屋の前で
声をかけられたからだ。

三十も半ばを超え、独身貴族を満喫していた私だったが、自分自身
寂しさをまとったオーラが出ていたのか、と思うと、
情けなさすら感じた。

だから、多少強い口調で言ったのかもしれない。

「言葉の意味はよくわからないんですが……貴方じゃなきゃ、駄目なんです」

どんな台詞だよ、と視線を反らす。
自慢じゃないが、女にモテた試しが無い。そんなことは自分自身が
一番良く分かっているつもりだ。

―― とすると、これはあれか?
いつも利用しているから、「サービス」で提供してくれているのか?

気付かれないように、少女を頭から足のつま先まで、舐めるように観察してみた。
年は……10代の半ばから後半、といったところか。

周りから見れば犯罪じゃないか、と思った矢先、自分がもうそんな年なんだな、と
苦笑する。

髪の毛の色が黒、というのが反って新鮮で、それでもうっすらとナチュラルメイクを
している辺り、今時、という言葉が当てはまる。

寒空の下にもかかわらず、短いスカートと、驚くほど白い太腿が、嫌でも目に付く。

「……駄目、でしょうか」


据え膳食わねば何とやら。……それに、私も「男」だ。こんな少女が
……どうせ、この店の営業だろう―― がここまで懇願しているんだ。

「のってみる」という選択肢以外には考えられなかった。


「いいよ、さぁ、入ろう。……寒いでしょ」



                  ◆


「いらっしゃい!!」

いつもの兄チャンが出迎えてくれる。

「今日は二名で」

「? ……あ、あぁ。了解ッス。 奥のテーブル席へどうぞ!!」

いつも座るカウンター席をすり抜けて行くのは、何故か少し優越感を
覚える。ふと、隣を見てみると、少女が少し嬉しそうに周りを見渡しているようだった。

「……良かった」

と、少女は嬉しそうに店内を見渡していた。

演技が過ぎるじゃないか、と言おうとしたが、それは野暮、というものか。
ここは、最後まで「夢を見る」ことにしよう。

そう、私がこの店で、独りではなく、温かい誰かと共に入れる。
今は、その心地良さに、甘んじていたい。




                  ◆


「ここはね、たこわさが美味いんだ」
「たこわさ、ですか。……辛いのはちょっと苦手で」
「そうなの? ……鳥の軟骨もイケるよ。そうだ、あとはユッケを頼もうか」

「あのぅ……申し訳ないんですが」
「? どうしたの」

「持ち合わせが、これしかないんですけど」

と言って出してきたのは……いわくらともみ??

「へぇ、これは懐かしい。大事にしてたんだ?」
「……大丈夫でしょうか」

岩倉 具視の絵が印刷された紙幣、それは1985年頃まで発行していた
「500円札」である。

僕くらいの年でギリギリ知っているくらいだ(少し下の世代だと物心
ついた時は500円玉が主流であろう)。


「ひぃ、ふう、みぃ……うん、これだけあれば十分だよ……って、
あはは。まさか君が幾等か出してくれるって言うのかい?
いいよいいよ。ここは、私が出しておくから」

「でも、悪いです。……一緒に入って欲しいといったのは私ですし」

―― ここまで来ると、あまりにサービス過剰なのでは? と疑ってしまう。
おい、そうだよな……と、店員を睨みつけようとするが、

店員を見てみると、さっきから、私達の方を見ては……少し、視線を
反らすのだ。

……そうか。このサービスを「サービスと気付かれないように」
見て見ぬフリをしているのか。

だから、気にはなっていても、声をかけづらい……といったところだろう。

まぁ、良い。今夜は、美味いお酒が飲めるのだから……。


「実は……ですね。いつも、見ていたんですよ。貴方の事」

ほほう。いきなりそういう話になるかね。

「……たまに、ですけど。ここのお店を利用してますよね」
「そうだね、ここは美味しいお酒と、『アテ』が有る。重宝しているよ」


「そうですか」

そう言って、少女は周りを見回す。

「ある時は、凄く幸せな顔で。……そして、ある時は、それこそ、泣いちゃいそうな顔で。
お店から出てくる時の顔、いつも違っていた」

「……そんなに見てたの? 僕のこと」

「あ、ち、違うんです! ええと、たまたまですね! そ、そう。私、この近くを
いつもたまたま通り過ぎていたから」

「……気になった、と」

「……あはは。そ、そんなところです」


……。

…………。



―― 沈黙。

ビールを注ぐ音がやけに耳に残る。
周りの声がやけに響いてきた。

いつもは独りで飲む酒は。

嫌でも周りの客の声が鮮明に聞こえてきたけど。

……そういえば、と思う。

少女と、話しているときは、そういった音が、全然聞こえては来なかった。


「……兎に角、会えてよかったです」
「そうかい」

「えぇ。……思い残すことは、もう有りませんね」

そんな、まるでもう居なくなるような……なんて思っていると、

「あぁーー!!」

「おぉっと!!」

注ごうとしていたビールの瓶を、落しそうになるのを堪える。

「最後に! 注がさせてください、ビール!!」
「なんだ、そんなこと……」

じゃあ、ちょっと待って。……と言って、私は一気に飲み干す。

「どうぞ」
「では」

それは、まるで何かの儀式のようだった。




「……おおきくなったね」

「え?」


「頑張んなさい。 せっかく、丈夫に産んだんだから。 ……私の分まで
精一杯、生きるのよ」


「……おかぁ……さん?」



                  ◆


「―― さん!―― お客さん!!」

「ん、んん……」

意識が覚醒する。

気がつくと、私は、そのまま寝ていたらしい。

「……ん? あの娘は」

「誰も……居ませんでしたよ、お客様。……『最初から誰も』」

「そ、そんなバカな」

「二人分の注文でしたし、誰かに話しかけているようでしたから……
ここから先はお客様のプライベートに関わることですからね」

「だって、そこにさっきまで……」

いいえ、いませんでしたよ。はじめから。

―― そう、店員は告げた。





                  ◆


何故か気になって、私は休みを利用して、実家へ帰省した。
最後に、少女が言った言葉だけは、鮮明に覚えているからだ。



せっかく、丈夫に産んだんだから。



「オヤジ!! オヤジ居るか?」
「どした、久し振りに帰ってきたと思ったら」


今は亡き、母親の寝室へ。

……そこで見た、アルバム。

母の、子供の頃の写真が載っていた、アルバムを。


……と思ったのだが、


何故か、

そのアルバムは綺麗に、母の少女時代だけが「無くなっていた」。


「親父、ここに貼ってあった写真は?」
「ん? そういや無いな。……オカシイな、触った記憶は無いんだが」



「あ」

「どうした」


「いや、何でもない。……親父、今日はもう帰るよ」


                  ◆


写真は、無かった。

……が、代わりに手紙を見つけた。


差出人は、母の名。

そして、


宛名は。





天国にようやく行けるかな。

……いつまでも、ウジウジしてたから、出てきちゃった。
これは反則行為なんだよ。

でもね。

男は、色々なことがあっても、

けっして、弱音を吐いちゃ、駄目なんだよ。


貴方は、前を向かなくっちゃいけない。

生きるってことは、そういうことなのだから。

じゃあね。もう会うことはないけど。

これは、「会えない」んじゃなくて、

「会う必要が無い」

ってことなんだよ。


もう、貴方は、

歩いていけるのだから。

                           おかあさんより





                  ◆


帰りの電車の中で、独り、泣いた。

周りの視線が、気にならないほどに。

そして、その手紙を―― 恐らく、もう二度と見返すことは無いだろうが――

胸ポケットに入れてみた。

すると、

そこだけが、

温かく感じられた。

そんな、





―― 冬の出来事である。

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[ 2010/01/12 21:20 ] ショート・ショート | TB(0) | CM(0)
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