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“ジャコ”

【登場する地名、人物名、団体等は全て架空のものであり
実在するものとは何ら関係ありません】


                         ◆


モノを大切にすると、その「モノ」には魂が宿る。
……そんな、ともすればホラーじみたこと、僕は信じていなかった。
や、そういうの信じている方がオカシイと思うんだけど。

でも、目の前の女の子は「大事にしてくれたモノ」が変化したものだと。
きっぱりと、そう言いきった。

「わたし。炊飯器の“ジャコ”です」
「炊飯の『ジャー』で、“ジャコ”、なの?」
「はいです」
「……安易なんだね」
「……すいません。そういうものなんです」

家に有った、炊飯器が無くなった代わりに現れた女の子は、そういうと
少し俯く。

「ご、ごめん。気分悪くしちゃったみたいだね」
「いえ。それは」

ぐ~。

「あ」
「……お腹、空いてたんですね。待ってて下さい。こういう時こそ、私の
出番なんですから」

そういって、少女は、お尻の先から電源コードを取り出すと……って
お尻??……ともかく、それをコンセントに繋げると。

「では、少々お待ち下さいね」

といって、ピクリとも動かなくなった。

……えぇと。確かうちの炊飯器って出来上がるまで結構かかったような。

それはそうだ。
大切に、大切に使ってきた炊飯器。……何十年も前の、本当に
古い炊飯器だ。……今時誰も使わないような。

だから、すっごく時間がかかる。
話しかけても、今は駄目みたいだった。

……。

…………。


「出来ました!」

……どこにご飯を入れて、どこから出したのか、見るのを忘れてしまった。
気が付けば、僕はうとうとしてしまったらしい。
少女の声で、目が覚めた。

「んと、“ジャコ”、ご飯が、炊けたの?」
「はい。あ、ついでにお台所お借りして、おかず諸々作ったです。
一緒に食べましょう」
「え、君も食べるのかい?」
「もちろんです。……自分の作った味を確かめる意味も含めて、です」
「ふうん。凄いね、まるで……」
「……?」

まるで、人間みたいだね、……と言いかけたところで、僕は言うのを
辞めた。
「みたい」っていうことが、彼女の存在を、曖昧なものにしてしまいそうだった
からだ。……よそう、今は目の前の食事に手をつけることが先だ。

「ん……おいしい」
「よかったです!」
「こっちの……焼き魚もおいしいね。そういやグリル使ったの久し振りかも」
「長い間、使ってなかったので、お掃除してから作ったんです。だから時間が
かかっちゃって」
「……ありがとう」
「……え?」
「実を言うとさ。……こんな風に、女の子に料理を作ってもらうの、初めてだから」
「女の子……」
「ん? どうしたの」

「えへへ。……こんな私でも、「女の子」として、見てくれたんだなって」
「……“ジャコ”」



                         ◆



月日は流れる。
……気が付けば、“ジャコ”と会って、幾月が過ぎた。

そして。

「あの出来事」は、暑い日に起こる。

「おーい。やってるか」
「父さん」
「おっ……と、おいおい、同棲してたんかい。そういうことは早く教えてくれないと」

予告無しに、実家の父が遊びに来た。暫らく帰省していなかった僕を、心配
しに来た、という。
同棲……“ジャコ”のことか。……確かに、傍目には女の子と同棲していることに
なるものな。

そんなことを考えていると、
「ほれ。お土産だ」
といって、父が差し出したのは、

「……新しい、炊飯器?」
「おうよ。最新型だぞぉ。凄いんだ、最近のヤツはな。この機能がな……」

と言って嬉しそうに説明をしだす。

「ち、ちょっと待ってよ、父さん。僕は別に」
「まま、ここに置いておくからさ。騙されたと思って、ためしに使ってみ?」

強引に置いて、父は、帰っていった。

「……」

その間、“ジャコ”は、一言も、しゃべらなかった。



“ジャコ”の、作るご飯はおいしい。
でも、時間がかかる。……すごく、かかる。
それは、昔の「製品」だから。
僕はそんなこと、気にしなかった。

……のに。

……父の「騙されたと思って」の声が、耳から、離れない。

すこしだけ……

ほんの、ちょっとだけ……。

僕は、埃がうっすらかぶった「その」段ボールに、手を伸ばした。


そのときだった。

何か、温かいものが、うっすらと、通り過ぎて、窓の外へと
「出て行った」そんな感じがした。



                         ◆





便利な、最新式の「炊飯器」。
すぐに炊けて、凄くおいしい。……僕は、その「炊飯器」を
使って、今、ご飯を食べている。

と、同時に。

“ジャコ”が居なくなった。

……当然か。“ジャコ”は自分の「役目」を果たしたと思ったんだろう。
僕が、僕が、ほんの少し「誘惑」にのってしまった所為で。

父は悪くない。……父は、僕の為を思ってわざわざ買ってきてくれたんだ。
……断るべきだった。……僕には、今、とても大事にしている
「炊飯器」があるから、と。

後悔しても、もう遅かった。
新しい、炊飯器の味は、確かにおいしい。
でも、何回も、何回も食べてみても。

“ジャコ”の作った、ご飯には……


窓から見える景色。じわぁと滲んだその先に、彼女は、逝ったのだろうか。
僕の目の前から、姿を消して。

滲んだ景色。……涙の所為か。
それは、止め処なく、流れ続けた。……拭うことも、忘れて、僕は
嗚咽を続けた。


                         ◆



幾年、幾歳。
僕は、もう「ぼく」と呼ぶには似つかわしくなった年になった。
息子に手を引かれて、僕はとある中古電気店に来ていた。

そう、あの時父が持ってきた「炊飯器」を売りに来ていたのだ。
息子が、無邪気に走り回っているのを静止させ、一緒にレジに向かう。

「これなんですが……」

「これはまた、随分と古いですね」

……あの頃「最新式」だった炊飯器も、月日が流れば「古くなる」。
それは当たり前の事。

「モノ」が消費されていく以上、仕方の無いことだが。
結局「コイツ」は……

「モノに命が宿ったのは……後にも先にもあの時だけだった」
「……? お客様?」
「い、いえ、何でもないです」

妻とは、息子が出来た頃に離婚していた。……今のように、
僕の姿が「少しオカシナ人」に映っていたのだろう。

愛の無い、生活だった。……そんな男との間に出来た子など
養う気にもならない、と育児放棄までして。

僕に残ったのは、あの息子だけ。
……はは。つくづく、僕は女性にはついていないんだな。

その時だ。

「ねぇ、お父さん。さっきから、女の人が、僕を見ているんだ」
「ん、なんだって?」
「だから、知らない女の人。……違うな、女の子かなぁ。
ほら、お父さん、見えるでしょ?」

「……!!」

「す、すいません!!」
「は、はいっ!!」

僕は、急いで、ショーケースの一番奥に陳列してあった「モノ」を指差す。

「はぁ、これですか。……って、あれ? あの、お客様。これは、
お客様がお売り頂いた商品よりも更に型の古いモノでして」

「わかってます、わかってるんです!……これを、ください」




チャイムが、鳴った。
僕は、急いでドアを開ける。

――あぁ、そこに立っていたのは。

間違いない。

忘れるもんか。

僕が、

ずっと、

ずっと、

会いたかった「ヒト」なのだから。

「……ただいま、って言っても良いんですか」
「……僕も、この言葉が、ずっと言いたかった。君に」

「お父さん、このヒト、さっきの……」


「紹介するよ。……僕の、かけがえのない『ヒト』」

「ジャコ、といいます。宜しくです」




【了】

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[ 2009/08/04 21:21 ] ショート・ショート | TB(0) | CM(0)
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