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夜長月の季節に君を想うということ

手紙が届いた。

「私は明日、自ら命を絶とうと思います。止めても無駄で御座います。
ですが、最後に、一度だけ、貴方に会いたいのです。はつこいの人である
貴方に」

僕はおじいさんに外出の許可を貰うために別室へ移動する。
案の定、おじいさんは難色を示した。

「こんなにも、想ってくれる人がいる。ほら、手紙だって」

手紙を握りしめ、僕はおじいさんに何度も「行かせてくれ、行かせてくれ」
と詰め寄るが、許してくれない。……なんて頑固なじいさんなんだ。

僕は、一大決心をした。手紙の日付は9月20日とある。
……明日じゃないか。行かなくちゃ。

でも、手紙に書いてある名前を見ても、思い出せない。
知らない女の子からの便りなのだろうか?

だとしても。僕をこんなに慕っているんだ。
行かなくっちゃ。

場所は……この街で一番大きい、桜の木だった。
















翌日、ある老人が病室を抜け出し、桜の木で倒れていたとのニュースが流れた。
発見された際、老人は既に息絶えていた模様。

手には、40年前に自身に届いていたという「恋文」を握り締めていたという。
担当医師の話によると「なんども止めたのだが、病室を抜け出してしまった」
とのこと。


老人の、顔は、
穏やかな笑みを浮かべていた、という。



【了】












甚だ簡単では御座いましたが、今日は「叙述トリック」なるものを
考えて超ショートショートで書いてみました。


「叙述トリック」って何ぞや?
小説を読まれる方ならご存知でしょうが、いわゆる


「文章上の仕掛けによって読者のミスリードを誘う手法」

のことです。

今回は「ボク」という一人称を用いたり、おじいさん、と
他人を呼ばせたり、さらに口調をどこか「子供っぽく」書いて
見ましたが、実は、この話の主人公は子供ではなく、
老人だった、というトリック。


おじいさんに許可、と有りますが、これはおじいさん=担当医師に
外出許可を貰う為、なわけですね。

書いた側は騙すつもり満々なんですけど、実際読んでみると、事実を
書いているだけ、読者が思い込みをしただけですよね? という手法です。
あー汚い。汚いですな(笑)

先入観を利用した叙述トリックはいろいろあります。

まず、登場人物が日本語をしゃべるけども……全員が実は外国人だったり。
「タロウ」という登場人物が、実は「犬」なので、「ここは誰一人通っていませんよ」
と言うトリックが有ったり「確かに「一人」は通っていないけど「一匹」は通っている」
俺、と言わせて実は女性。場所が多岐に渡っている……と思わせといて、
実は映画の撮影所だった、とか。


大切なのは、途中でバレると面白くないこと。
徐々に違和感を持たせ「まさか、これ叙述トリック?」と読者に提示させるのが
上手い方法ですよね。憧れます。

実は、エロゲでも叙述トリックを用いた作品が幾つか有ります。
それを探してみるのも面白いかも知れませんね。

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[ 2011/09/19 21:51 ] ショート・ショート | TB(0) | CM(0)

高校の時に書いていた小説が出てきたのでちょこっと抜粋してみた

「ひとりでいるより、大勢の人といる方が、孤独を感じる。だから、私は「ひとり」を
『独り』と書く、貴方のことが嫌いなんです」

「人は一人では生きて行けない。だからこそ、他人を知ろうとするし、慈しもうとする。
……それはいけないことかい?」

「所詮、貴方も汚い大人の一人なんですよ。わかっているようで、実は何もわかっていない。
それなのに、大人を演じようとしている。……孤独は誰でも嫌なはずでしょ。だったら
放任しておいてください。私は、もう誰とも仲良くなんてできないんです」

少女は、そういって、僕を、世界を、拒絶した。

どうして、僕は、君を救うことができないんだろうか。





(あらすじ)
主人公は、売れない作家。当然、彼の家に居候としてあらわれる謎の少女。
……彼女は家出少女だった。

当然、家に帰るように説得する主人公。だが、彼女の決心は固く……。



(解説)
そのまま掲載するのも恥ずかし過ぎるので(苦笑) 加筆修正してます。
高校生だった当時書き留めていたノートを実家で発見しまして。

「ブログのネタになりそうやん!」

と思って持ち帰った次第です。

今でも「ボーイ・ミーツ・ガール」モノは好きで、特に男の子視点で
「不思議な少女」との1体1の恋愛が、それこそ何篇と有りました(笑)

友達の「ひとり」って「一人」とも「独り」とも書くよね、という
何気ない一言から書いてみた、となってますね。

これ言ったの、アイツかな? なんて昔を思い出して、懐かしく読んでました。
高校当時「エヴァ」が流行ってたので、そこらへんの影響もありますね。

ちなみに、大学の時には「ロボット」モノも自分のホームページにイラスト付で
公開したりしてましたねー。

ちなみに、現在は残っているはずもなく……削除されてました(笑)

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[ 2010/09/07 00:38 ] ショート・ショート | TB(0) | CM(0)

されどわれらが日々――

【この物語に登場する地名、人物名、団体等は全て架空のものであり
実在するものとは何ら関係ありません】














数年振りに故郷に帰省した。

母親と父親の過剰な歓迎もほどほどに、少し暇を持て余したので
ほんの気まぐれにと、昔通っていた小学校までの「通学路」を辿ってみようと
思った。

―― そう思えば後は早いもので、僕は自然に、歩きだしていた。




心躍る、とまではいかないまでも、歩く度に色々なことを思い出すものである。

記憶という名の膨大なデータベースは、普段眠っていたままで、何かの
きっかけで、過去の出来事とは、まざまざと甦るモノらしい。

給食袋をぶら下げてランドセルを背負ったまま、走り過ぎた日々。
そこにあったのは、笑顔だったかもしれないし、また、涙を拭いながら
トボトボと歩いていたのかもしれない。


そこにたどり着いたのは、歩き始めてからおよそ4、5分ほどのことだった。
丁度、自宅と小学校の真ん中程にある、小さな「お地蔵様」。

「あぁ、そういえば」

僕は、毎日、そのお地蔵様の頭を撫でて、「いってきます」「ただいま」
を繰り返していたっけ。

友達の少なかった僕は、少しでも「話し相手」が欲しくて、お地蔵様に
話しかけていては、寂しさを紛らわせていた。


さて。こんなにオンボロだったかなぁ、というのが初見の感想である。
見れば、所々剥げていて、首括りに使われている赤い塗料も剥げ落ち、
薄茶色のようであった。


―― 撫でてみようかな。


今は、友達が欲しいとか、そういう願いをする年でもないし、撫でたところで
どうということはない。
中学校に上がっては、別の通学路になったのだから、本当に久しぶりのことだ。

なんだか儀式めいた感じもしたが……

僕は、恐る恐る、その可愛らしい頭に「触れて」みた。




「……ひさしぶりだね」


声の方に振り返ってみる。
そこに居たのは……






「こんちゃん……こんちゃんじゃないか!!」
「あはは、変わらないなぁ、うんうん、元気そうで何よりだよ」

「……って、ちょっと待って」

こんちゃん、とは僕が小学校の時、一緒に遊んだ少女である。
当時の僕より少し年上のお姉さん。
14~5くらいの外見だったと記憶している。

最初に出会ったとき、彼女は
「うちと、お友達になってくれる?」
……と言った。友達の少なかった僕は二つ返事で承諾した。

それから、毎日のように遊んでいた。
……そう、このお地蔵様の有る場所で、いつも、いつも。

しかし……。

その話は「当時」の話だ。

今、目の前にいる少女は、何故、


「その当時のままで居る?」






夕方になるまで、僕らはまるで子供のように、遊んだ。
否、正しくは「子供のころの自分を取り戻すかのように」
ただただ「無心になろうとして」身体を動かした。

それは「決して戻ることのできない過去」を無理にでも
再現しようとする、悲しい、悲しい「遊び」だった。



だから、僕は、少女に訪ねなくてはいけない。
それが、

この「まやかし」のセカイを壊すことになったとしても。






「……君は、ほんとうに、あの『こんちゃん』なのか?」









「……そうだよ」





曇りのない目で、僕を見つめる少女。

『こんちゃん』はあだ名である。
怒らせると、まるで「キツネ」のように唇をとがらせて
非難の顔をするので、僕が付けたあだ名だ。

今、目の前に居る少女は「こんちゃん」に間違いない……のだろうか。


「ひとつ、質問してもいいかい? 僕が、小学校の時、出会ったのは
確かに君の容姿に『似ている』少女だ。でも、何故君は『成長』
していない? それじゃあ、まるで君が……」

「人間じゃない、そういうことかな。……もしそうだったら?」



「敢えて言おう。それはない。確かに、君と遊んでいるのは『僕だけ』だったし
思い出の中の少女に、君はそっくりだ。だけど、僕はそんなにセンチメンタルな
感情は持ち合わせていないんだ」



「君は……もしかして『こんちゃん』の……」

















目の前の仏壇に、手を合わせる。
初めて知る、あのお姉さんの……少女の、本名は、なんだかしっくりこなかった。

「お母さんは……いつも、貴方の話をしていました。ここは田舎だから、こういった
情報は早く入ってくるんです」
「それは、僕が帰省したってことを、かい? ……それで、君はわざわざ」

「この服、母の形見のひとつなんです。そして、母と、貴方の思い出でもある」
「そう、だね」


つまりは、こういうことだったのだ。
目の前にいる少女は、ただただ「母の想い人」を合わせたいがために。
こうした一芝居をうったわけである。


「もう……3年になります」
「そうなんだ。お父さんは?」
「私が生まれた後、離婚したそうです。……だから、本当に、私には、
母だけでした」

そういって、僕を見つめる目が、何か言いたげだった。



……これは、いけない。いけないことだ。

「帰るよ」

それが、彼女と、僕との「決別」を意味する言葉だった。

「そうですか。……でも、これだけは言わせてください。
私は、母の為を想ってあなたのことを……」

「ありがとう」

「……さようなら」











実家の滞在予定を、予定よりも早く切り上げた。
僕は、1時間に1本しかないローカル線の電車を、まるで置いてけぼりにされた
子供のように待っていた。

「……運悪く、乗り逃すなんて、これはある意味で運が良すぎるかもな」

さて、次の電車まで1時間ある。

どうしようかと手持無沙汰でいると、


「良かった。まだ私、運が残っていたみたいです」
「……君は」


麦わら帽子に、白のワンピース。

これじゃあ、まるで昔の恋愛ドラマじゃないか。
男に都合の良いだけの、本当に有り触れた、三流恋愛映画だ。


「現実は、小説よりも、奇なり、ですよ」
「そうみたいだね。……本当に良いの? 君、学校は」


「あれ、気付いていないかったんですか?」


そういうと、少女は柔らかく微笑むと、


「私『たち』、本当に、人間じゃないんですよ?」





ガタン、ガタン。


電車が、ローカル線の電車が、次第に近づいてくる。
駅員のアナウンスが、木霊(こだま)する。


「お客様、お客様、発車しますよ! お急ぎください!

……乗らなくても良いんですか、ねぇ、ねぇ!」





【了】

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[ 2010/08/30 14:57 ] ショート・ショート | TB(0) | CM(0)

千鶴の近所のお兄ちゃん【夏の怪奇シリーズ】 壱:白いうなじの少女 最終話

【登場する地名、人物名、団体等は全て架空のものであり
実在するものとは何ら関係ありません。またパープルソフトウェアより
発売されたソフト『明日の君と逢うために』に関する登場人物とは、
何ら関係ありません】




                  



「それは、間違いなく愛のちからだな!」

青色のチャイナドレスを着た少女が、より強調された胸を誇らしげに主張すると
こう答えた。

「どこを見てるのよ『また』怖い目に会っても知らないんだからね」

今度は赤いチャイナドレスを着た少女が、僕に鋭い視線を浴びせる。


ここは、行きつけの中華料理屋―― の、一室。
どうやら、従業員が使用している休憩室のようだ。

「……ったく、あんな目に会ったばかりだって言うのに、男ってホント
単純ね」
赤いチャイナドレスの女の子が、目を細めて、こちらを睨んでくる。

あんな目、というのは……
そう、まさに数時間前の出来事である。





                  



恐怖で動けない、とはまさにこの事だと。
そう思う余裕すら、僕には無かった。

目の前の少女が、白いうなじの少女が振り返った。
その顔を見て、僕は絶叫した。

「もう一度、死んでちょうだい」

と言った少女は、僕に襲いかかろうとする。

あまりの出来事に、僕は逃げるように―― といってもここはバスの中。
身体を満足に動かせない僕は、ただ後ろに「倒れる」だけしか
出来なかった。

これが、精一杯の抵抗。


―― そのときだ。

声が、聞こえたのは。


「だめっ! ―― 君っ!」

僕の名前を、呼ぶ声。

……誰だ? バスの中で、僕の名前を知っている女子なんて居たか?
クラスメイト? ……いや、僕はクラスでも女子に気軽に話しかけられるほど
社交的な存在でもなかったし、そうでなくても「暗い」「キモイ」
なんて言われて、相手にもされなかった。

いつからだろう。こんな性格になったのは。
……小学校のときは、まだそれほどでも無かったのに。
むしろ、どちらかというと、積極的で、明るい性格だったと思う。

あれは、誰だっただろう。
……小学校のとき、良く僕に話しかけてくれた女の子がいたっけ。
名前は……確か、月野……


ははっ。

苦笑する。これが、走馬灯ってヤツなのかな。ほら、死ぬ前に、
昔の記憶が甦るってヤツだ。

でも、今、聞こえたのは、初めて聴く「オト」だ。

その、

声の主は――

僕に、こんな僕に、

涙を目にためて、

手を伸ばそうとしてくれたんだ。

そして、僕はその手に向って……



                  



かの有名な天才科学者、アインシュタイン先生はこう述べたと言う。
時間とは常に一定の方向で進んでおり、互いの次元は、相容れず存在している、と。

つまり、過去の自分と、現在の自分が、同一に存在することは有り得ない。
どちらかが「消滅」するしかない。

そういうことである。

「彼」が今の「彼」に会えなかったのもその為。
「どちらかが消える」のを、彼は躊躇していた。

消えるのは、どちらか。
それは、もちろん「死んだ彼」であろう。
生きている「彼」の方が、今を生きている「存在」であり、時間軸において
正しい、とされる個体なのだから。

……しかし「生きたい」という願いが、あまりにも強いのならば。
また「何かを遂げよう」という強い意志を持っているならば。

もしかしたら、「今生きている人間」が、「死んだ人間」よりも
劣っている可能性も有る。

だからこそ、彼は、自分に合わなかったのだろうし、また……彼が言うところの
「神様」という存在も、それを認めなかったのだろう。

そして、私も「見えるはずが無い」であろう、自分の「死んだ自分自身」と
有る意味、この数ヶ月バスで共にしてきたのだ、と悟った。

彼が、いつも見ていたのは―― 私だ。

そして、私には、わかる。
嫌なくらいに。

きっと、私は、彼みたいな綺麗な最期を選ばない。
私は、凄く、嫉妬深いから。

必ず、私は彼と一緒に居たい、そう願うに違いない。
だから、

私が、私を止めなくっちゃ。

そう思った。

まもなく、バスは終点付近に差し掛かる。彼は「いつものように」運転手から
一番近い場所に立っている。

―― いるのか。そこに。
―― 「私」が。「私の形をした、死んだ私」が居るのか。

止めなくっちゃ。

進む、進む。
怖いおじさんににらまれても、構わなかった。

どいて、くださいっ……!
前へ、前へ通してくださいっ!

時間は、刻一刻と迫る。
だめだ、

もうすぐで、

終点のターミナルだ。

……恥ずかしがるな。

思いっきり、叫んでやる。

私は、注目を浴びるのも構わず、

彼の、

手を、

取ろうとして、

私自身の手を、

のばす、のばす、のば――


「近寄らないでよ、何も知らない癖に」


わたしが、


否、

「私の形をした」

死体が、

腐臭を漂わせながら、

まるで呟いたように、こちらを振り向いた。






                  





暗闇。……その中で、呟いている、少女。



怖かった。
―― 私は、何もしていない、なんていえなかった。
彼に嫉妬して、
彼を殺してしまったのは―― わたし。

でも、もっと嫌なのは、

この、醜くなった顔を、見られるのが、

いや。

「じゃあ、貴方……じゃなかった、もう一人の『私』は……最初から
彼を殺すつもりで居たのね。再び、このバスで」

そうよ。……当たり前じゃない。

「普通は、さ。……というか、良くある小説とか、漫画だと、ここで
奇跡が起こって……ううん、こうやって死んだ私と話していること自体、
普通じゃないんだけれど……貴方は、きっと改心して、成仏する……
そんな結果も有ると思うんだ」

……。

「でもね、私は、自分のことだから、わかる。……嫉妬したことも。
それに、顔のことも。……だって、今の私だって『そうするに違いない』
って思うから」

そう、だったら、邪魔しないで。……アンタは私だけど、こんな目に
あった私じゃない。だから……アンタは

「消えろって言うんでしょ。……残念だけど。私は、アンタの分まで
生き抜いてやるわ。アンタっていう十字架も背負ってみせる。
呪いたければ、呪いなさいな。それでも、私は、彼と、生き抜く」

何も彼の事を知らない貴方が?
私はね、生きていた時の、思い出があるのよ。
ずっと、ずっと貴方と違って、彼との思い出が沢山有るっ……!
そんな私が、どうして! 今の貴方より!
こんな目に会わないといけないのよっ!!

「だから! ……アンタの分まで、彼を幸せにしてみせる!
彼は……彼は、アンタなんかに、」

暗闇の中に、

一筋の、光。

そこには、

彼。

「……っ!」

私は、手を、

手を伸ばす。


「お願い、手を、手を伸ばしてェぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」






                  




「それにしても、こんな話、まさか真剣に聞いてくれるとは思わなかったよ」

赤いチャイナドレスの少女に向って、僕は答えた。
後で、彼女から聞いた話だと、どうやら「もうひとり」の僕がこの少女に
見惚れたので、嫉妬したのだとか。

結局、僕らはそんな奇妙な体験をした者同士……すっかり意気投合して、
付き合い始めようか、という話になった。
……色々な意味で、不思議な縁だ。

縁といえば、この赤いチャイナドレスの少女。
僕が、小学校のとき、隣の席に座っていた女の子だったのだから、
びっくりした。


「ま、この話を聞いていると、あたしにも原因があるよーな感じだしね」
「そ、そんなことはない! ……見惚れてた、んじゃなくて、昔の
知り合いに顔が似てたんで、つい見てしまったんだよ」

「んー。話を交ぜ返すようなことは辞めた方が良いと思うぞ」
と、青いチャイナドレスの女の子は目を細めてそういった。

「それにしても吃驚したわ。バスがいきなり急停車したんですもの。
それで慌ててみたら、貴方たちが倒れててね。……事故にならなくて
良かったわ」
「それで、事務室に連れてきた、というわけか」
「ま、今食べた料理代は、きっちり払ってもらいますけどね」

あはは……と笑う僕たち。

とにかく、これでめでたし、めでたし。

「じゃあ、僕らはこれで」
「うん。頑張んなさいよー」

赤いチャイナドレスの女の子に向って、僕らは手を振った。

「幸せにならなきゃな、僕たち」
「そうね」
「……僕は、もうひとりの僕の分まで」
「そうね」
「そして……」


ガタン、ガタン、ガタン……。

踏み切り前の、列車の通過音で、

「君は、「死んでしまったもうひとりの」君の分まで」

僕の声が掻き消されたのか、

「え、ごめん……聞こえなかった」

彼女が微笑む。

「いや……なんでも、ないよ」

―― そうだ。時間はまだたっぷりある。
これから、少しづつ、

歩き出せば良いんだ。

「行こうか」
「ええ」







                  




「おーい、こっちは終わったぞー」
「ええ、ありがとう。アンタも休憩、行って良いわよ」
「なんだ? 難しい顔して」
青いチャイナドレスから強調された胸が、ぽよ~ん、と当たる。

「……」
「ほえ?」

「ま、良いわ。……今日の……ほら、例のカップルの話だけどさ」
「ん? それがどうかしたのか?」

「最期、彼女が手を伸ばしてーって言って、気が付けば二人はバスで倒れていたのよね」
「ん、そうだな」
「確か、彼女の話だと、「死んだ彼」が消えているのを見たって言ってたわ。つまり、
どちらかが消えるのは、間違いないわけよね」
「……それがどうかしたのか?」

「いや、男の方は恐らく「死んでしまった彼」が消えたってことでほぼ間違いないんだけど」
「……それって」

「彼女の方は、結局『どちらが消えた』のか、あいまいなままだったような」
「だ、だだだだだだだだだめだ! その先は、その先は言うなー!」

あはは、なんてね。……まさか、そんなことは。


……まさか、ね。






                  




夕日が、まぶしいなぁ。

僕が、独り言のようにいうと、

先に歩いていた彼女が

「そんなに眩しいかしら」

と言う。

「あぁ、そうだね。お陰で、顔が見えないや」

丁度、夕焼けで彼女のシルエットが黒く、黒く見える。

「じゃあ、こうしたら見える?」


そういって、


彼女は、


こちらを、


逆光から、

離れた位置まで進んで、




振り返っ――





【完】

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[ 2010/06/08 19:16 ] ショート・ショート | TB(0) | CM(0)

千鶴の近所のお兄ちゃん【夏の怪奇シリーズ】 壱:白いうなじの少女 第4話

【登場する地名、人物名、団体等は全て架空のものであり
実在するものとは何ら関係ありません。またパープルソフトウェアより
発売されたソフト『明日の君と逢うために』に関する登場人物とは、
何ら関係ありません】




                  



―― 今日、僕から声をかける、つもりだった。
胸の鼓動が高鳴る。
なのに。

「……いつも、見ていました」
「え」

白いうなじの少女が、初めて発した言葉。
僕が、初めて聴いたその「音」。

透き通っていて、それでいて確かに芯の有る……そう、僕だけに
届くような、そんな「オト」だった。

―― 少女は、振り向かない。

「そのまま、そのままで……聴いていて下さい」
「……うん」

「私は、酷い女なの」
「……」

好きな人が、いて。……最初は、知らなかった。でも、ずっと、彼も私の
ことが好きだ、そう言ってくれた。
最初に告白したのは、彼。凄く、嬉しかったなぁ。

それでね。色々なところに遊びに行って。
沢山、沢山、思い出、作ったの。

「次は~ ……前~、……前、です」

永遠に、続くと思った。
だって、そうでしょ? 私も、彼のことが好きだったし。
彼も、私のことが、スキダッテ、イッテクレタ。

「次は~ ……団地前、……団地前、です」

そんな時「その事故」は起こった。
―― これは、彼も知らない話なんだけど。

私たちは、いつものように、このバスに乗っていた。
そこで、

そこで、

彼が一瞬だけ、そのバスに乗っている女の子を見たの。

その子は、

真っ赤なチャイナドレスを着ていたわ。

ふふ、確かにそれは驚くわよね。

でも、彼なんて言ったと思う?

「次は~ 沖原……前、沖原……前、です」

―― キレイだな。

って

そこで

わたし、

頭が真っ白になって

彼に

罵声を浴びたの

そしたら、吃驚した彼がね

運転手のところまで転げちゃって

ハンドルに


「まもなく~ 終点……」

                  



―― 少女が、振り返る。
僕の、方へ、向きを、変えようとしているのだ。

何故だろう。

僕は、その話を聴いて、動悸が激しくなるのを感じていた。

「嫉妬」? ……否、違う。
なにか、得体の知れない「冷たい、硬質でいて鋭利なもの」が
喉元を、しっかりと捉えているように。

少女の「言霊」が僕を縛り付けているようだ。

振り返る、

振り返る、

少女が、

白い、

うなじの、

少女が




「……フフフ。神様も間違いってするのね」

「女はね、顔が大事っていうじゃない」

「こんな」

「醜い顔のままで、貴方に逢えるわけないじゃない」
「貴方に、見せられるわけ、ないじゃない」


「一緒に、」


顔は、

皮膚と言う皮膚が剥きだしていて、


「もう一度」

眼球は落ちそうになっている。


「死んで頂戴」

匂い、匂い。
腐った匂い、

駄目だ。

駄目だ。このままじゃ、

駄目だ、駄目だ、駄目だ、






「う、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」






【続く】

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[ 2010/06/05 09:25 ] ショート・ショート | TB(0) | CM(0)

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